審査結果発表

総評

令和という新しい時代を迎えて半年が経ちました。めまぐるしく変化する時代にカメラを持つ私たちは何を表現していけば良いのでしょう。
SNSの影響もあり、ただ美しいだけの写真を追い求めていては見る側が感動を覚えなくなってきています。撮影した画像を加工するには、それなりの意味合いがなければなりません。
自分というフィルターを通して作品を発表することによって、私たちが鑑賞者に何を投げかけたいのかが重要になってきています。その意味合い(テーマ)が感じられて心に残った作品を選ばせていただきました。

マウスコンピューター賞

せめてあのオレンジでも食べ垂れたら

:kltoさん

グアテマラの青空市場での光景。捕らわれながらながらも目先の食材(フルーツ)が気に なるのでしょうか。強い生命力を感じます。オリジナルデータはもっとあっさりした色調 でしたが、濃度を落とし、絵に深みが増したことで異国情緒と生命力が強調されました。 背景の雑多な状況を濃度を落としすぎないギリギリの階調を残すことでメインの被写体(作 者のメッセージ)が浮かび上がって伝わりやすいトーンバランスになりました。この旅の 写真がもっと見て見たい、、。そう思わせる1枚です。


市川ソフトラボラトリー賞

森の妖精

situationさん

situationさんはこのお嬢さんを被写体にした作品を他に数点応募くださいました。どの作品も心に残る仕上がりでしたが、この1点を選ばせていただきました。柔らかいトーンに仕上げてあります。お子さんやお孫さんの写真の場合、「うちの子、可愛いでしょ。」という表現が多いのですが、少しだけ覗いている表情や仕草から、自然の中で遊んでいる歓びが感じられますね。もう少し引いた絵でお子さんの足元まで写っていたら、可愛らしさが倍増したかも、、とも思いましたが、もしかしたら何かしらの理由でこのフレーングがベストなのかもしれません。ミロのヴィーナスの両腕のように、見えないからこそ鑑賞者の想像で絵に広がりがや生まれるのかもしれませんね。

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赤米実る鞠智城

僕ちゃんさん

オリジナルデータは稲穂がかなり暗い画像でしたが、作者には撮影時にこのイメージができていたのでしょうね。RAWから作り上げる作品として秀逸な1枚だと感じました。太陽とお城という2つのキャッチーなポイントがある上で、お城を画面センターに配置したことがベストなのか、もう一歩な踏み込んで構図してみてはいかがでしょうか。

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Laser beam

こっとんさん

カメラを持っている方なら一度は遭遇したいと思わせる光景ですね。雲の階調を現像で巧く引き出しています。カメラが縦位置だったらさらに作者のメッセージが込められるのではないかという気がしました。レーザービームのような「雲の凄さ」を記録したかったのかもしれませんが、その下に広がる街並み(人間の営みの様)に光が差しているのだと考えたら、ただ美しいだけの写真から更にメッセージ性のある作品へと昇華した気がします。

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スタジオグラフィックス賞

初秋のキバナコスモスに舞い降りる。

mjs2000

一面のグリーンの中に黄色い花と同系色の蝶。実際、難しい写真だと思うんです。望遠でクローズアッップにしてしまいたくなるシチュエーションなのに敢えて周囲を広く入れて尚且つ前ボケを効果的に使うことでメインの被写体に目がいくように撮影されています。現像以前に高い撮影技術、表現力がしっかり備わっている作者だなと感じました。さらに現像で柔らかいトーンに仕上げていることで優しさが増幅されいています。お見事です。さらに上位を目指すには「新しさ」が勝負のカギになるでしょう。もうその領域にトライなさる力は充分に備わってると思われます。

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沈んだ町

こっとんさん

いい作品です。絵が綺麗な上に、「ダム建築のために沈んでしまった街」というモチーフがじわじわと響いてきます。組作品として作り上げていけば素晴らしいシリーズになりそうです。こういう作品を世に出すには作者がダム肯定派なのか、否定派なのか、、、?もしくはそういう座標軸ではなく、社会の中で新しく生まれるもの、捨て去られていくもの、をテーマにしたいたいのだ、、といった、作家の立ち位置が求められることになります。ただ美しいから撮った。。というのもアリですが、これだけの作品を撮ることができるのですから是非次のステップにチャレンジして欲しいですね。こうしてベタ誉めする割に上位に入れない理由は「1点ものとしての画力」です。つまり綺麗だけど弱い。これが決して悪いわけではありませんから続けて頑張ってください!

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にゃんこ、捕まえた!

マタベエさん

丁寧に現像された良い写真です。こうした自然な表情を狙った写真は現像で加工しすぎないほうがいい。あざとくなりますからね。その加減を心得ていらっしゃるようです。作品から新しさを感じないかもしれませんが「時代が変わっても残り続けて欲しい子供の笑顔」が写っています。そんな「願い」こそがこの作品のメッセージになっていますね。もうすこし画面を広く周囲が入っていたほうが、この場所がどんなところなのか、また足元の陶器の置物の意味も伝えられるかもしれません。面白い表情の置物に囲まれているのですからそれをエッセンスとして使わない手はないでしょうね。

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月詠櫻

me…

素敵な変化を遂げた作品です。絵画のような美しさ。個人的にとても好きな世界観です。画面下にいくに従って花弁が暗く仕上げられていますがその微妙な調子の作り方で作品の良し悪しが決まります。審査は画像データで行なっていますが、今後はプリントでトーンを突き詰めて仕上げていただきたいと願います。他の花を撮ったらどうなるのか、シリーズの続編を拝見したいですね。

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夜明け

そらねこ

空の広がりといえば大抵の方が横への広がりばかりを強調しがちなのですが、このように縦写真にすると階調も豊かになります。この作品を選んだ理由はそれだけではありません。2本のタンポポ。その1つが種子が飛んでしまってなくなっています。もう片方はまだたわわに付いています。2つが同じ場所にあるにもかかわらず、こうした状況に違いがあるということは、人間関係や、社会の構図やネットワーク、様々なもののメタファー(隠喩)として使うことができます。できればこの2本が並列ではなく、多少の前後や高低の差があれば構図的にもっと優れたものになったでしょう。

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銀河の誕生

てけ

花火の作品はたくさん見てきましたが、てけさんの作品は構図、露出的にも印象的です。花火といえば派手さ、華やかさ、ばかり表現しがちですが、しっとりと仕上げられた線画に新しさを感じます。
ご自身が写真作家としての誇りを持った上で、花火を作った方へのリスペクトまでも受け取ることができます。他にも同じトーンの作品を応募くださいましたがそちらも同様に素晴らしい作品でした。素敵です。

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